ブローグ横丁

2016年8月29日 あいぼりーな夜の話。

地方取材は、移動はなかなか大変だけれど、ルーティンの通勤やいつもの札幌取材ではお目にかかれない風景、知り得ない取り組み、お会いできない魅力的な人との出会いがあって好きだ。

その取材の詳細は、これからリリースされたり発信されたりする誌面やwebコンテンツでお伝えするとして、今回は、先日とある町での取材...が終わって宿に帰ってからのカメラマンとの酒場めぐりを時系列で。


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◎ 一軒目 
午後4時半。どの店もやっていない...と思ったら、のれんが出ている店を発見。「いろり酒場 あいぼりー」。和風か洋風なのか、和洋折衷のネーミングに妙に惹かれる。芸能界で言うなれば、キャロライン洋子、ガッツ石松、身近なところで言えばスージー山本(そう呼ばれたことがあります)的な店名。ただ店内はいたってアットホーム。優しそうなママが一人で営んでいる。「まだ日が高いから、のれんを洗濯して干してただけなんだけどね」と笑う。ビールを3杯ほど頂く。


◎ 二軒目 
午後五時半。いい焼き鳥屋があると「あいぼりー」のママが言う。豪快でウマイと。その店に足を運ぶ。ガラリと扉を開けると筋骨隆々の大将が焼き場に立っておる。ちょっとビビって座る。なるほど、焼き方は豪快だ。鳥の半身を炭バサミでバサバサ焼いていく。けども、それ以上に豪快なのがその話ぶり。「この前来た客がよぉ、グチグチウルサイからよぉ、水かけてやったわ。グワハハハ...ってか!」笑えない。一ミリも笑えない。その上しゃべれない。ちょっと声を張り上げた途端、水びたしでつまみ出される...そんな絵が浮かぶ。ひー。怖い。背筋が伸びる。二人してウルトラゆっくりビールを啜り、意味もなく店を眺め回し、ひたすら焼きあがるのを念じる。30分後、鳥が焼き上がる... と同時に立ち上がる。「急に用を思い出したので、土産にしてくださりますでしょうか」と、ありえない敬語で、ありえない言い訳をし、ありえない角度まで頭を下げ、店を出る。


◎ 三軒目 
午後六時半。この怯えた心、寒々しい思いを温めてくれるのはどこだろう。カメラマンの目を見る。カメラマンが頷く。「あいぼりーですね」本日二度目のご出勤。ママが「あら、また来たの」と微笑む。怖かったよー、ママに甘えたくなる。


◎ 四軒目 
午後七時半。もう一軒いい店があるよとママが言う。人気の居酒屋。自分ら二人が入った時点で満席。カウンターに座る。何品かオーダーするがいやはやびっくり。どれも量が半端ない。刺し身は2人前でゆうに五人前はある。サラダはバケツに入ってるかと思うくらい。しかも新鮮でウマイ。ウマイ。ウマイ。自ずとテンションが上がる。カメラマンが横に座っている恰幅のいいオジサマに「お相撲さんですか。何部屋ですか」と軽口を叩く。さっきの焼き鳥屋の反動だ。酒場の振り子の法則だ。いやそうなる気持ちもわかるくらいに実に活気のある店だった。楽しかった。


◎ 五軒目 
午後九時半。この満足した心。完璧に調子づいた思いを、やさしく諭してくれるのはどこだろう。カメラマンのアルコールに潤んだ目を見る。カメラマンが頷く。「あいぼりーですね」本日三度目のご出勤。ママが「一日に三度来るなんてレジェンドだわ」と笑う。うまかったよー、ママに甘えたくなる。


◎ 六軒目 
ここから記憶が無い。どこか行く。


◎ 七軒目 
あいぼりーのような。


◎ 夜中  
焼き鳥屋の大将に水をかけられまくる、という悪夢にうなされる。

結局何の話だ。
ま、つまり、だから、
移動は大変でも、夢見が悪くても、地方出張は楽しいってことだね、上坂。

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